興味深い話を聞いた。
僕が美容室を経営しているところは実はシェアオフィスになっていて、美容室の奥にはデスクが並ぶオフィスがある。
そこでいつも仕事をしてるフリーランスのカメラマンがいて、興味深い話を聞いたというのはその人とランチに行った時の事だった。
午前中の空いた時間に僕はせっせと物の配置を変えていた。
前の日の夜に急に鏡の位置が気になりだして、出来上がったジグソーパズルをぶち壊すかのように店に置かれている鏡、テーブル、椅子、小物すべてをバラバラにしたからだ。
今までは良かったはずなのに、1ヶ月もたつと『なんか違うかも?』という気になってくる。
というか『こっちに置いたほうがもっと使いやすいかも』というような改善したい願望とでも言えるかもしれないが、単純に飽きただけかもしれない。
今までは分かれていた鏡を横並びに揃え、茶色かった縁はペンキで白く塗り直し、ライトの位置を変え、テーブルの位置も変えた。
最後に『まだ何か足りないな・・・』と部屋全体とにらめっこしている時にそのカメラマンさんに声をかけられた。
『またやってますね(笑)』
その人はDIYというものが好きで、お互いよくそんな話をする。
※DIYとはDo it yourself の略で、“自分でやっちゃえ”というような意味。
僕も過去に【美容師がたった7万円で美容室の内装をすべて手作りでやっちゃった嘘のようなホントの話。】という記事を書いたりもしたが、こういうのって意外とやってみたら出来るもんだし、何より楽しかったりもする。
立ちながらいろいろと話していたんだけど、立ち話もアレなんでってことで一緒にランチに行くことになった。
高円寺で有名な老夫婦がやっている定食屋薔薇亭(ろ〜ずてい)の狭いカウンターに腰掛けて、チキンカツ定食を食べながらなんだか興味深い話を聞いた。
『DIYな仕事をしたいんですよね。』
カメラマンさんのその言葉がなんだか僕にはめちゃめちゃ理解できた。
言い方は違えど僕も同じような事を昔から思っていたからだ。
『移動式の古本屋をやりたいんですよ〜』
聞けば今のカメラの仕事が嫌になったとか飽きたとかではなく、新しいクリエイティブな”何か”をしたいということだった。
現在のカメラの仕事は雑誌社などから依頼された撮影をこなすもので、自ら作り上げていくものではないと。
そして、その自分がした仕事を見る(つまり雑誌を買う)わけでもないという。
『カメラは好きだけど、なんか・・・』
というモヤモヤがそこにはあり、そう言ったものではなく自分で何かを作りだす仕事はないか?と考えた時に古本屋さんに行き着いたそうだ。
古本をリメイクしたものを販売したり、古本の中の素敵な1文や1ページを抜粋した物を販売したり……
普通は移動しない古本屋さんが移動し、普通の古本屋さんには無い一手間加わった物がそこに並ぶというわけだ。
それを始めようとした理由はいろいろあるらしいが、そもそも本が好きなんだそうだ。
もし、カメラマンの仕事を辞めて移動式の古本屋さんで生計を立ててくとなるとたぶん無理なんじゃないかと思うけど、あくまで生活のベースがあった上での新しいことだし、なにより好きなことを楽しめる事なので、僕はすごくそれを良いと思った。
以前フリーランスのことについて書いた僕の記事をLINE株式会社の田端さんがリツイートしてくれた事でまた最近になり爆発的に読まれはじめている。
読んだことない人は『美容師 年収』とかで検索してくれたらすぐ見つかると思う。
あれを読んだ人も、そうでない人も、フリーランスって自由だと思うだろう。
フリーランスという言葉にはそんな魔法があるように僕は感じている。
でも本当にそうかというと、実はそんな事もない。
フリーランスも基本的には仕事を誰かに貰わないと生きていけない人種である。
美容師で言えばお客さんが予約してくれて髪を切りに来てくれなければお金にならない。
カメラマンで言えば雑誌社が依頼をしてくれなければお金にならない。
つまりクライアントありき。
クライアントが依頼してくれたことを”こなして”はじめてお金を得られる。
まあ当たり前のことなんだけども・・・。
ただ、そういうものを果たしてクリエイティブな仕事と言うのだろうか?
僕はそうは思っていない。
美容師で言えば、お客さんが『黒髪ボブにして』と依頼してきた場合『金髪ショート』にする事は許されない。
依頼通りの仕事を求められ、それを要望どおりにできて初めてお金をもらう、つまり仕事をしたということになる。
それはクリエイティブと言えるのだろうか。
例えば、営業時間中にはお客さんの要望どおりの仕事をしたとして、別日で音楽活動を行ったり、雑誌や撮影の仕事をしたり、セミナーを行ったりしている人はクリエイティブと言えるのではないだろうか。
クリエイティブというと聞こえがいいけど、それがつまり“DIY的な仕事”だと僕は考えている。
クライアントに依頼されなくても仕事をする。(お金を稼ぐ)
まさにDo it yourselfではないだろうか。
現代社会は多種多様なものが溢れかえり、情報も溢れかえり、めんどくさいと言うと語弊があるかもしれないが、なんというかとても複雑で難しいように思う。
すべての事が一筋縄じゃ行かない。
だからこそ、ひとつの仕事、ひとつの概念に縛られずにいろいろな仕事を経験していく事が重要だと思う。
僕はよくフリーランスになったほうがいいよとかなんとか言っているが、それはアンチ雇用だとか、会社勤めの人の仕事がダメだとか、そんな事を言いたいわけじゃない。
(それを勘違いされてツッコまれると話が逸れるので、それだけは違うとあえてきっぱり書いておく…)
結局フリーランスだろうと雇用だろうと、どちらも生きるための選択でしかない。
それに正しいも間違いもない。
仕事ができるからフリーランスに転身するのも、会社に勤めて上を目指すこともまた人生の大儀であるのかもしれないが、ただその中で、人に言われた事をちゃんとやってるだけじゃあまり評価されない時代になっているのではないかと僕は思う。
“普通”とか“みんなと同じ”からの脱却がキーワードになっていて、ひとつの事をみんなと同じようにやっているだけじゃ絶対に突き抜けられない。
『突き抜けられなくてもいいじゃないか』とか、『みんなと同じでいいじゃないか』とか、たくさんの人がそう思ってるんじゃないかと思う。
そうそう簡単に勤めた会社が潰れるなんてことはないだろうけど、万が一会社が赤字続きで社員が切られる事態になったとか、不正が発覚して会社が潰れたとか、そうなった時にまっさきに切られてしまったり、他にできる仕事がなくて困ったらどうするのだろう。
それだけでなく、事故とかそういう不都合が身に降り掛かった時も、”安定”というものは実は簡単に壊れてしまうのかもしれない。
それはフリーランスだろうと雇われだろうと同じ。
単純に、現在の仕事をすること自体が不可能になったらどうやって生活するか?
それが若い時でなく、40歳とか50歳とかだったらどうするのか?
というのは考えたことがあるだろうか。
実は僕は雇われ美容師アシスタントの頃から『何か副業ができないものか』と模索していた。
厳しい先輩とかにそれを言って『なんで?』って聞かれたら『もしなんかあって美容師できなくなっても困らないようにです』と答えたら『ちゃんと美容師やれよ』と笑われたりもしていた。
もちろん”ちゃんと”美容師はやってたつもりだ。
ただそんな気持ちがあろうとも、力も金も発想力もない若造にお金を稼ぐ方法がすぐに見つかるわけもなかった。
何をやっても中途半端になってしまう気がしてた。
だけどその頃から6年7年たち、今では全収入の約20%を副業で稼げるようになった。
当時は自分に能力がないだけかと思っていたけど、今思うと基盤がなかったからかななんて思ったりする。
基盤さえあれば、リスクなくなんでも新しいことができる。
新しいことを始めるにも、全部投げ捨てて移行して失敗すると大変なことになるが、基盤の仕事をしつつ新しいことをしていけばまず失敗はないだろう。
僕にとっては今は美容師という仕事が基盤になっている。
自分の店も構え、そういう基盤を作れたのも、それもこれも辞めずに美容師を続けてこれたからだろう。
そして、その上で様々なことを始めている。
クリエイティブな仕事。
DIYな仕事。
誰かに依頼されなくても、少しずつ少しずつ仕事をしていけてる。
今ある肩書をみると正直自分でも何者なのかわけわからない。
美容師、ブロガー、ライター、講師、著者、イベントオーガナイザー・・・
わけわからないが、ただ2つだけはっきりと言えることは、すべて自ら望んで楽しみながらやっているということ、そしていろいろやっても基盤の美容師はおろそかにしないということ。
スティーブ・ジョブズとか世界的に有名な人はそうして基盤となる仕事をしながら起業したらしい。
また会社で優秀な人を見てみると、大体2つか3つくらいのことは同時にやっている。
僕の周りにいる”すごいな”と思える人はみんな会社で働きながら趣味を仕事にしていってる。
例えば普段は会社員だけど、アクセサリーの作成と販売もしてる人とか。
クリエイティブな人はひとつの仕事にとらわれずにそうして幅広く経験値を稼いでいくのだろう。
僕は大金持ちになりたいとか、大企業の社長になりたいとかそういう願望は特にないが、ただただ普通ではいたくない。
それはさっきも言ったようにもし何かあった時に誰に養ってもらえばいいかわからないから。
そうならないなんて保証はどこにもないし、何よりもハサミがなきゃ何もできない人生なんて、僕はいやだ。
28歳で副業での収入が20%になったので、30歳には副業での収入を全体の50%にしたい。
あくまで目標。
もちろんさっき言ったようハサミを置くつもりもなければ、パフォーマンスを落とすつもりもない。
空いた時間で他のことをやればいい。
その時間がなければ無駄を省いて作ればいい。
それでも時間がないなら自分の価値を上げれて収入を増やし、働く時間を減らし、他のことに使える時間を増やせばいい。
・・・というのが僕の考えだったりする。
僕が美容師だからといって、これは別に美容師に向けて書いた話では全くない。
そして今普通に働いている人たちに文句を言ってるわけでもない。
(何故か僕の記事はケンカ売っていると思われることが多い…)
全然文句を言ってるわけではないが、ただ、政治とか経済とか仕事とかに文句を言ってるだけで動かない人にはせっかく書いたので読んでほしいなとちょっと思ってるたりはする。
結局のところ、雇われてるとかフリーランスとか全然関係ないし、年収が低いも高いも関係ない。
文句がないならそのままでいいのだと思う。
別にそれは誰にも迷惑はかけていないし、満足度なんて人それぞれだからだ。
だけど、もし将来が不安だとか、今が嫌だとか文句を言うのであればまずは自分で動いて何か少しでもやってみたらいい。
逆に言うと、文句だけ言ってて自分では一切動かないという人は、ずっとそのまま生きていくのだろうし、いざという時には困るんだと思う。
昔はたぶんそんな必要はなかったのかもしれない。
だけど時代は徐々に変わっていってる。
普通からの脱却。
周りが、会社が、行政がやってくれないなら自分でやるしかない・・・とDIYを求められる。
そんな時代がもうすぐそこに来ているのかも知れない。
・・・と、古本屋さん志願のカメラマンとチキンカツを食べながら思ったというお話でした。
もし僕が明日怪我とかなんらかの理由でいきなり美容師を辞めることになったら、どうやって生きていくだろう?
この記事を書くにあたりそんなことを考えてたら、きっと副業を本業にして、またさらに副業を探すだろうな〜という答えになった。
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