【なんかしにカンボジアにやってきた。トラブルまみれの陸路国境越えバス移動。】

ベトナムに入国してはや11日が経った。

毎日フラフラ散歩をし、気まぐれに田舎に行ったり、ビールを飲んだり。

昼飲みしてるオッサンと仲良くなってキャチャみたいな名前の謎の魚をおすそ分けしてもらったり、カエルやナマズを食ったり、ナイトスポットで夜飲みしてるオッサンと仲良くなってビール奢ったり。

毎日散歩してオッサンと戯れてビールを飲んで。

「一体僕は何をしているのだろう」なんて昨日の朝起きたときに思ってしまった。

正直ベトナムのホーチミンにしても、田舎町にしてもそこまで楽しいと思ったりはしなかった。

世界を旅したときの感動はもうそこにはなく、観光にせよ街歩きにせよ食べ歩きにせよ、そのほぼすべてをもうやり尽くしてしまっていたのだと実感した。

なら次の国へ、いったことない国へ、とやってみたところできっと同じなのだと思う。

旅をするということにあまり楽しさがなくなった旅人というものは、一体どう形容すべきなのか自分でも悩んだ。

ベッドから起き上がるでもなく、今日一日をどう過ごすべきかと悩んでみた。

昔は泊まらなかったようなダブルルームエアコン付きの部屋でゴロゴロとしているのは、日本にいるときのそれとあまり変わらないと感じた。

海外旅行がどうという以前に長期休みがない人からすると、なんともったいないことをしているだろうと思われるかもしれない。

せっかくのベトナムでメコン川下りの一つもせずホテルでごろごろするなんて狂ってると思われるかもしれない。

地元では「富士山に二度登る奴は馬鹿だ」なんて言れたりするが、やはりメコン川下りも1度やっておけば十分だった。

もう本当に何もやることがないと思い、急遽思いつきでカンボジアへ行くことにした。

本当に急で、しかも思いついた時間が遅かったため、15時発の最終バスに乗ることになった。

それまでに残りのベトナム通貨のドンを消費すべく日々通った店で最後にビールを飲み、フォーを食べ、Tシャツやらを洗濯にだした。

15時すぎ、バスに乗り込みそれなりに広いシートに座ることができた。

快適である。

東南アジアはバス旅も味があっていいのだが、少し過酷ではある。

しかしなぜかベトナムに関してはバスの快適さに国策で力を入れているのかというくらい快適なのである。

エアコン完備、充電もでき、シートはほぼフルフラット。

カーテンも付いているし、水までついてくる。

寝たくなくても寝てしまうほど快適なのだ。

そのバスに比べると見劣りするが、それでもしっかりとした大型バスだった。

車内にはベトナム人らしきグループやヨーロピアンらしき旅人がいる。

1時間ほど走りベトナムの国境のモクバイという街にほど近くなった頃だった。

「ドカン!」

突然バス全体が大きく揺れた。

バスが止まり、車内がざわつく。

機械に関しては何もわからない僕だったが、おそらくパンクしたのだろうと思った。

僕のシートのちょうど真下から何かが爆発したような衝撃が来たからだ。

降りてみると案の定というか、タイヤがヘコんでいた。

旅人の直感的に「30分かな」と思った。

タイヤを交換するのかパンクをなおすのかわからないが、30分の猶予がある、そう思った。

ちょうどベトナムドンがまだ少し残っているなと、バスが停まったところの近くにあったKFCへ行き、ケンタッキーフライドチキン丼のようなものを買った。

250円だった。

東南アジアに限らないが、諸外国ではケンタッキーと白米をたべる文化がある。

僕は結構嫌いではない。

こういうときに旅慣れしていない人はバスが出発してしまうかもしれないという恐怖から動くことができない。

別に動かなくてもいいのだが、動けたほうがなんとなく得をした気分になる。

というよりトラブルによって時間なりをロスしたと思いたくないだけかもしれない。

結果的に30分はピタリと当たっていた。

車内でケンタッキーを食べながら、しょうもない能力が身についたものだと思った。

順調にバスは走り、国境を超え、カンボジアへ入国した。

5年ぶりである。

カンボジアの入国にはビザが必要になる。

本来は一人ひとりがビザの申請を行い、お金を払う手続きなどをした上でイミグレーションで入国審査がある。

パスポートにスタンプを押してくれるアレである。

ベトナムからカンボジアへバスで入国するツアーのようなものの場合は、なんとその申請をバスの運転手のオッサンがやってくれる。

パスポートとビザ代40ドルを車内で集められるだけで、あとは出国審査も入国審査もない。

まさかの素通り入国。

過去様々な国に行ったが、北キプロス・トルコ共和国からEUのキプロスに不法入国したときよりもアッサリとしていた。

アッサリというか、なにもない。

カンボジア側のバヴェットという国境の街につくと、雰囲気が変わる。

なぜか中国語が目立つ。

東南アジアの国境にはカジノがよくあるが、それ故に中国人が来るからだろうか。

バヴェットからさらに走ること3時間半、夜23時にようやくカンボジアの首都プノンペンへついた。

プノンペンは2度ほど来たことがあるから土地勘もわかるし困りはしなかったが、初海外初カンボジアで夜遅くにプノンペンに放り出されたら結構恐怖かもしれない。

かなりきれいな宿に泊まり、でかけもせずそのまま寝た。

翌日、というか本日、また朝思い立ってコンポントムという街に行ってみることにした。

5年前に来たときに立ち寄って、結構いい感じの田舎町で気に入ったからだった。

思いつきでカンボジアに来て、思いつきでプノンペンを離れることにした。

そして思いつきでコンポントムへ行くつもりが、バスに乗る15分前に気が変わり、やはり行き先をアンコール・ワットがあるシェムリアップに変えた。

コンポントムまで3時間半、シェムリアップまでは6時間半ほどだ。

2日連続の長時間バスでなかなかキツイが、やることもないため一気に移動してしまうことにした。

コンポントムはまた今度改めて来よう。

そう思ったのが間違いだったかもしれない。

チケットをとってシェムリアップ行きのバスに乗ったまでは良かった。

熱い。

とてつもなく車内が暑いのだ。

というか熱いのだ。

エアコンが壊れているのか、ほとんど機能していない。

というか温風が出ている。

現地のカンボジア人らしき乗客もみんな汗だくになっている。

サウナ一歩手前のバスはノロノロと全く進む様子がなく、1時間の道のりを2時間かける有様だった。

10分走っては荷物を積み込み、10分走ってはなんかをしている。

暑いのと進まないのでイライラしたところで成す術もなく、バスの運転手のオッサンに身を任せるしかなかった。

社内はオッサンの趣味であろうトランスミュージックが爆音でかかっている。

カオスだ。

3時間半我慢し、途中コンポントムに差し掛かったときに、あまりの暑さに下車するか悩んだ。

しかし田舎すぎて宿がないかもしれない。

確か昔来たときはそんなに宿はなかった。

ネットで調べてみてもよくわからないし、歩いて探して宿がなかったら悲惨だ。

悲惨というか、カンボジアの田舎で野宿は流石に無理だ。

野犬に食われる。

そう思い、すでに満身創痍だったが+4時間のバス旅を選択した。

1時間が経ち、2時間がたった。

グーグルマップによると、シェムリアップまであと2時間という場所に差し掛かったときのことだった。

【フッ】

車内の電気とエアコンが消えた。

バスはギアの力を感じられない、いわゆるニュートラルのような状態になりスイスイと進んだ。

エンジンが止まったのだ。

はいはい、これはこれは。

乗客も察したのか、路肩に止まったバスの外に出た。

修理の様子を見たいというより、単に暑かったのだろう。

風が当たる外で涼しみながら、誰も言葉を発さない。

今度は20分かな、と思った。

最悪つかないとしても、運転手だってさっさと帰りたいはずだ。

無理やりなんとかするだろうと思った。

機械のことはよくわからないが、外から見ている限りでは無理やりつけたのだろうということがよくわかった。

もはやエンジンがエンジンの音をしていなかった。

「もうキャパオーバーです!」とエンジンが悲鳴を上げているように聞こえた。

気のせいかもしれないが、もうどうでも良かった。

疲れた。

するとエンジンが爆発するかしないかくらいうねり声をあげて、勢いよくかかった。

15分だった。

それからというもの運転手はその15分を取り返すかのように信じられないスピードでバスを走らせた。

車内のトランスミュージックのボリュームも心なしか上がった気がする。

窓から見える、過ぎ去っていく景色があまりに早い。

「バスってこんなにスピードでるんだ…」と初めて思った。

事故ったら全員死ぬやつだと思った。

それくらいの飛ばし方をしているのを全員察してか、誰も言葉を発さなかった。

エンジンの機嫌とつじつまを合わすかのようにハイスピードで走るバスの車内で今これを書いているが、ポストしたあとになんのアクションもなかったら事故ったということになるのだと思う。

そうならないよう祈るばかりだ。

とりあえずそんなこんなでカンボジア滞在がスタートする。

アンコールワットはおろかどこへも観光は行かないだろうが、なにかが楽しみである。

カンボジアではそろそろちゃんと小説を書いたりと活動していこうと思う。

それと次回から思いつきの長距離バスはやめようと思う。

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